Internship

インターンシップ

■テキサス大学エルパソ校 2014.9.21- 2014.9.27

■参加者

熊本大学HIGOプログラム     5名(学生4名、特任助教1名)
熊本大学大学院社会文化科学研究科 2名
熊本大学政策創造研究教育センター 2名(教授1名、准教授1名)
熊本大学医学部保健学科      3名

■目 的

テキサス大学エルパソ校(UTEP)が主催するSocial Justice Initiativeと連携し、資源制約下において高いパフォーマンスを発揮するための逸脱的行動(PD)をキーワードとし、組織や集団、地域社会等において、より良い成果をもたらすためのコミュニケーション手法やリーダーシップについて学ぶ。

■内 容

【ポジティブ・ディビアンス(PD)について】
私たちが暮らす社会には、 “逸脱”的な個人や組織、そしてそれらを支える行動が存在します。そうした逸脱的行動は当たり前の行動ではないために、見過ごされがちですが、実はPD行動の実践によって、通常よりも高い成果やパフォーマンスが生み出されるケースがあります。そしてPD行動が注目されるは、行動の主体が資源制に恵まれず資源制約下にある場合です。PDのアプローチでは、資源が乏しい状況であっても、誰もがその行動にアクセス、実践できるという視点が重要になります。加えて、PD行動を社会に普及させていくことで、より良い結果を享受できる主体を増やして行くことにつながります。PDのアプローチは、こうした逸脱的行動を発見し、普及させるコミュニケーションプロセスを意図的に実践することを意味しています。

1日目
参加学生たちは、最初にPD研究の第一人者であるUTEPのアービンド・シンハル教授からポジティブ・ディビアンス(PD)の考え方や事例に関して学びました。ケーススタディとして米国における院内感染のケースに関して勉強しました。皆同じ感染リスクがあったにもかかわらず、長年にわたって感染していない職員の行動から、PD行動に関する事例紹介が行われました。またベトナムの農村部における子ども栄養失調状態の改善プログラムにおけるPDの事例紹介もなされました。夕方にはシンハル先生が担当するCommunications and Healthy Communitiesの講義にも参加し、UTEP学生らと交流を図ることができました。

2日目
次に、PDをはじめ周囲に良い結果をもたらす行動を普及させ、様々な意見や価値観を持つ人々と円滑にコミュニケーションを図るための手法であるLiberating Structure (LS)を実践しました。LS手法の一つである「スピードネットワーキング」では、「他人とコミュニケーションを図るとき、心がけていることは何か?」という質問をテーマに、短時間で多くの人々とコミュニケーションを図る手法を実践し、各参加者間での実践や経験の共有を図りました。振り返りでは、他人の実践・心がけから、新たな気付きや視点を獲得することができました。

3日目
3日目は、さらにPDやLSの理論や実践例をシンハル先生からご紹介していただいた後で、午後からは国境を越えて、メキシコのシウダーフアレス市を訪れ、フアレスでは、実際にPDのアプローチを現場に役立てDV・女性暴力への防止、救済に取り組んでいる「Casa Amiga(友人の家)」という名のNPOを訪問しました。
 フアレスはエルパソから近い距離にあるメキシコの街ですが、エルパソとは街の雰囲気ががらりと変わります。この街は、国際的にも治安の悪い都市として知られており、女性への暴行事件、殺害や誘拐事件の多い街でもあります。Casa Amigaのメンバーたちは、こうした被害を受けた女性たちに対して、グループセラピーや避難場所の提供を通じて支援を行っています。暴力被害防止団体や法律家チームとのネットワークを持っています。ここでは、「被害者女性自身が自分に責任を感じる必要がないこと」を認識させるカウンセリングの際に、PDの考え方や実践役立っているそうです。
米国メキシコ間の往来は容易でも、エルパソとフアレス、二つの都市の違いは大きなものでした。HIGO学生たちも米国とメキシコの違いや、地域住民の安全・安心のために、前向きに尽力しているNPO活動の重要性を肌身で感じることができました。

4日目
フアレス訪問後、研修も後半に突入し、さらにLSのアプローチを学習しました。4日目は、User-Experience Fishball やAppreciative Interviewsという手法を実践しました。LSの手法を使って「今後、HIGOプログラムを良くしていくためには何ができるのか?」、「この研修で学んだ経験、コミュニケーション手法を他の学生やHIGOプログラム以外の学生と共有するのはどうすればよいのか?」といったテーマを中心に集中的な議論を行いました。シンハル先生からも「誰もがアクセス可能な様々なコミュニケーションを学び、実践することで、組織や集団に変容をもたらし、より良い成果を生み出すことができる」と述べられており、HIGO学生らも短時間で建設的なコミュニケーションを図る手法を深く学ぶことができました。

5日目
UTEPで行われているPD研修も終盤に入り、「今回学んだLSなどのコミュニケーション手法を熊本(日本)で普及させていくためにはどうすれば良いか?」というテーマでワークショップを実施しました。しかも限られた資源(シンハル先生が出した条件は以下の3つ)の中でどのようにすれば良いかを考えました。

1. 期間は1か月以内
2. 予算は500ドル(約5万円)以下
3. そのプログラムは2時間以内で実施できる

ここで用いられたブレーンストーミングでは、以上の3つの制約条件を満たしながら、各人が考える最良の提案を評価しながら、チームの中で迅速に意見共有を図って行きました。参加した学生らも「職場や学校での実践」、「メディアの活用」、「オープンキャンパスでの実践」など、実現可能な案を真剣に考える機会となりました。

6日目
PD研修最後の日には、参加者全員で振り返り(リフレクション)の機会を設け、今回のリーダーシップ&コミュニケーショントレーニングを通じて学んだものを全員で共有しました。

トレーニングを終えて
困難な状況下にあるコミュニティにおいても、その中で他者と違った行動を取ることによって困難に打ち勝っている個人や集団が見られることがあります。こうした逸脱しているけど望ましい成果を生み出す行動に着目するPDのアプローチは、コミュニティにおける潜在的な資源を見いだし、コミュニティの中で何が上手くいっているのかを見極め、周囲と共有を図って行く問題解決の手法です。資源制約下においても、利用可能な潜在的資源を見いだし、その力を十分に発揮するために周囲と円滑にコミュニケーションを図るスキルはリーダーにも求められる資質ではないでしょうか。
 UTEPでのトレーニングは「Positive Deviance」 をキーワードに、苦境にあっても、皆が平等にアクセスでき、問題解決に貢献できるコミュニケーション手法を学んだ一週間となりました。全体のコーディネーターを努めていただいたシンハル先生は「仮にPD行動が発見できても、それを普及させるためには多くのエネルギーや懸命な取り組みが必要です。まずは実践を続けてください」と語ってくださいました。
 今回、トレーニングで学んだ内容はHIGO学生にとっても新たな視点で物事を捉え直す機会となり、学生らからも「目から鱗だった」、「自分も異端の中から成功を見つけられる人物になりたい」という感想もあり、HIGOプログラムや日頃の研究活動、今後の人生にも役立てて行きたいという思いをもった学生も多かったようです。
最後に、今回のトレーニングが大変実り多きものとなったのも、アービンド・シンハル教授はじめUTEPの教職員や大学院生の皆様、そしてUTEPのSocial Justice Initiativeと力強い強いパートナーシップを築き、プログラムを全面的に企画・支援してくださった熊本大学政策創造研究教育センターの河村洋子先の多大なご尽力のおかげです。この場を借りて深く感謝の意を申し上げます。

■参加した学生の声

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