Internship

インターンシップ

■水俣インターンシップ 2017.8.28-9.1

■参加者

HIGOプログラム(学生10名、教員4名)

■目 的

1950年代に水俣で確認された水俣病を、メチル水銀による環境汚染と公害病としてだけでなく、住民、患者、行政への影響と対応を含めた複合的な問題として学ぶ。 
また、学んだことを水俣条約や世界の水銀汚染問題への検討へと発展させることで、グローカルな課題解決の視点を養う。

■内 容

1日目
3日間にわたり、国立水俣病総合研究センターに滞在しながら、国水研の研究者から水俣病の原因となったメチル水銀の健康影響や国水研の研究・調査活動についての講義を受けた。初日は、水俣病の歴史を学ぶとともに、国水研が国際協力機構(JICA)のプロジェクトとして中米ニカラグアで実施している、マナグア湖の水銀汚染調査などについて詳しい説明がなされた。また、現在地球規模で実施されている環境水銀モニタリングのメカニズムと体制について学んだ。

2日目
午前中は、メチル水銀がどのようなメカニズムで人体に影響を与えるのかについて、科学的な知見を学んだ。また、国水研が実施している水俣病患者に対するロボットスーツを用いた歩行訓練など、様々な種類のリハビリテーションの目的と効果に関する説明を受けた。午後は、人体のメチル水銀摂取の指標として用いられる毛髪を学生が実際に採取し、体内のメチル水銀量を測る毛髪水銀値測定を体験した。分析結果の毛髪水銀値を確認しながら、普段の食生活の中での魚介類の摂取量との関連性を振り返り、水銀が人体に取り込まれる過程についての議論を深めた。

3日目
午前中は、国水研がメチル水銀中毒の診断法を検討するために、水俣市立総合医療センター内に開設したメグセンター(脳磁計(MgnetoEncephaloGraphy)検査を行う施設)を訪れ、水俣病の症状に対する最新の治療法を見学した。その後、国水研の水俣病情報センターと市立水俣病資料館に移り、水俣病発症のメカニズムや被害の拡大の経緯、補償をめぐる患者運動などに関する展示資料を見学した。ここでは、実際の写真や記録を目にすることで、水俣病が地域にもたらした被害の深刻さを改めて認識した。午後は、胎児性・小児性水俣病の患者が集う施設「ほっとはうす」を訪問した。自らの人生や水俣病について語る患者の話に耳を傾け、講演後は押し花制作作業を通じて患者たちと交流した。また、水俣病患者が早期に確認された地域を実際に歩いて視察し、漁業と被害の関連性や地理的な特徴などについて理解を深めた。

4日目
この日は、水俣病患者の支援を続けてきた団体の相思社を訪れた。最初に相思社にある水俣病歴史考証館を見学し、当時の漁具や患者運動で用いられていた旗などの資料を見学した。その後、相思社の元職員の高倉史朗さんから、水俣病の患者運動の歴史と、補償と救済措置が行われた経緯についての講話があった。午後は、水俣病に対する行政の対応を学ぶために、水俣市役所を訪問した。市役所では、水俣市が水俣病の経験を基にして、独自の環境ISOの創設やごみの高度分別といった、環境モデル都市としての取り組みを進めていることや、水俣病によって打撃を受けた地域の漁業再生への取り組みについて講義を受けた。また、庁舎前で行われていた市民による20種類のゴミの分別作業を見学し、環境負荷を減らそうとする市民の意識の高さを実感した。

5日目
インターンシップ最終日は、水俣環境アカデミアに移動し、インターンシップを通して学んだ事の振り返りを行った。午前は、古賀実所長から、水俣病の発生から現在の水俣市の環境への取り組みまでを紹介した包括的な講義を受けた。さらに、市立水俣病資料館の元館長で、「地元学」の提唱者でもある吉本哲郎さんから、水俣病をめぐって分裂した人と自然、人と人との関係を修復しようとする「もやい直し」と地域の再生について、具体的な実践を伺った。午後は、現在も水銀汚染の問題を抱えるタンザニア、ニカラグア、インドネシアを事例とし、水銀汚染を改善するために科学者として何ができるかという観点から、グループワークを実施した。学生たちは水俣インターンシップでの学習の成果を活かし、メチル水銀の吸着に効果があるとされる植物の育成や科学的知識を用いた啓発活動など、問題解決への取り組みを独自の観点から議論・発表した。

インターンシップを終えて
高度経済成長期の日本の深刻な環境問題である水俣病について、メチル水銀研究の最新の知見に加えて、水俣病が地域に及ぼした影響や、補償をめぐる患者運動の歴史、近年の環境都市としての取り組みまで、水俣病を多様な観点から学んだ。また、最後のグループワークでは、水俣病についての学習を基に、世界の水銀汚染の改善について自らが科学者としてできる事を考えるという、ローカルな視点をグローバルに展開していく発展した学びへとつなげることができた。今回のインターンシップは、様々な方のご協力のお陰で実現したものであり、この場を借りて深く御礼申し上げたい。

■参加した学生の声

これまでは、科学的な立場のみから水俣病を見ていたが、実際に患者団体の方のお話を聞くと、科学的な立場からのみでは解決できない問題がたくさんあることを痛感した。

国水研の訪問まで、国水研についてほとんど何も知らなかったが、水銀の研究を通して世界に貢献する国立の研究所が熊本にあることに驚いた。また、水俣病を通して、研究者としてどのように社会、地域に貢献できるかを考えるとても良い経験となった。

It’s no doubt that industrial development brings people civilization progress and material prosperity. But when we come to its cost, a cruelty it may be sometime, which the MINAMATA internship taught me.

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