Internship
インターンシップ
■水俣インターンシップ 2019.8.19- 8.23
■参加者
HIGOプログラム(学生8名、教員2名)
■目 的
【キーワード:水俣病の多面的学習、水銀に関するリスクコミュニケーション】
1956年に公式確認されたメチル水銀による公害病である水俣病について、科学的メカニズム、歴史・社会的背景、その後の環境都市づくりへの取り組みなど、多面的に学ぶことを目的とする。また、水俣で学んだ事をもとに、2019年11月にジュネーヴで開かれる「水銀に関する水俣条約」の第3回締約国会議(COP3)に提出する、水銀に関するリスクコミュニケーション文書を作成する。
■内 容
1日目
インターンシップ初日は、環境省の研究機関である国立水俣病総合研究センター(国水研)を訪れた。最初に、インターンシップに参加する医薬系の大学院生たちがプレゼンテーションを行い、自らの研究テーマを紹介した後、国水研の役割や機能を理解するため、国水研のメチル水銀に関する調査・研究を紹介する動画を視聴した。続いて、毛髪から過去に摂取した水銀の量を測定する実習を行い、学生たちは実際に自分の髪を切り取って測定機器で計測を行った。また、水俣病に関する包括的な講義を受けて、当時の水俣の生活や水俣病、水俣病が確認されてからの歴史、患者への賠償問題などについて学んだ。
2日目
2日目は、メチル水銀の健康影響や患者への治療法、国水研の国際貢献などについて、国水研の研究者から講義を受けた。国水研が国際協力機構(JICA)と協力し、中米ニカラグアでの水銀汚染問題の解決に取り組んでいることや現地への技術移転などについて学んだ。また、環境中の水銀循環メカニズムと地球規模のモニタリング体制、メチル水銀の毒性機構に関する講義も受けた。午後は、国水研内にあるリハビリテーション施設を訪れ、水俣病患者の治療に使用されるリハビリ医療用ロボットを視察したほか、水俣市立総合医療センター内のメグセンターを訪問し、慢性期の水俣病患者に対する脳磁計を用いた磁気治療法を見学した。国水研で働くHIGOプログラム修了生の穴井茜さんから、勤務経験を踏まえたキャリアに関する講話を受けた。
3日目
3日目は水俣病の歴史を集中的に学ぶ一日となった。午前中は、市立水俣病資料館と国水研の水俣病情報センターを訪れ、水俣病の被害の拡大の経緯や発生当時の地域コミュニティの様子、患者運動などについて、豊富な資料を見ながら学んだ。その後、相思社の水俣病歴史考証館を訪れ、水俣湾で使われていた漁具や患者運動の際の旗などの貴重な資料を見学した。午後は、メチル水銀を含んだチッソの工場排水が流されていた百間排水口や患者が早期に確認された地域を実際に歩いて回ったほか、水俣病慰霊の碑を訪れ、犠牲者の冥福を祈った。最後に、水俣病の原因企業のチッソから事業を継承したJNCの水俣製造所を見学し、学生たちは疑問点や気付いた点について、活発な質問を行った。
4日目
4日目は、主に今日の水俣の環境への取り組みを学んだ。午前中に訪れた水俣市役所では、環境保全型都市づくりや環境ビジネスの創造など、環境によるまちの再生をテーマにした市の取り組みについて講義を受けた。「水俣漁師市」開催の経緯や課題についても学び、マガキの養殖を行う漁業者から水俣湾の変化や生活についても話を伺った。学生からも水俣の新たな観光アイデアとして、サイクリングイベントなどのプレゼンテーションを行った。午後は、水俣で瓶のリユース・リサイクル・リメイクを行う企業を訪問し、再使用可能なR瓶がリユースされる過程を実際に見学した。さらに、この日は、胎児性・小児性水俣病の患者が集う「ほっとはうす」を訪問し、4人の患者さんから自らの人生や水俣病についての話を伺った。学生たちは、実際に患者さんと交流することで、水俣病の被害を再認識するとともに、前向きに生きる姿勢から多くを学んだようであった。
5日目
インターンシップ最終日は、午前中に水俣環境アカデミアで、古賀実所長から水俣インターンシップの総括となる講義を受けた。さらに、水俣インターンシップの発展的学習として、「水銀に関する水俣条約」第3回締約国会議(COP3)に向けて作成する、水銀に関するリスクコミュニケーション文書について、環境省の職員から基本的な考え方や条約をめぐる最近の動向などの講義を受けた。午後は、環境について相互に学びあうことを目的に、地元の水俣高校の高校生11人とワークショップを行った。水俣高校生からは水俣の海・自然について、HIGO生からは水俣病の治療薬開発の可能性について、それぞれ英語で発表があった。さらに、どうすれば更にプレゼンテーションが良くなるかを大学院生と高校生が一緒になって考え、修正・発表を行うことで、お互いがプレゼン内容に関する理解を深めるとともに、科学に関するコミュニケーションを深めることができた。
リスクコミュニケーション文書作成ワークショップ
2019年11月にスイス・ジュネーヴで開かれるCOP3の日本政府ブースで、水銀に関するリスクコミュニケーション文書を各国の参加者に配布するために、水俣インターンシップに参加したHIGO生7人が環境省職員らの指導のもと、9月と10月の2回、文書作成ワークショップを行った。9月のワークショップでは、世界の水銀廃棄物管理についてセミナー講演をした国連環境計画の本多俊一氏も指導を行った。学生たちは日常生活における水銀のリスクを、誰に対し、どのようにわかりやすく伝えていくかをグループに分かれて話し合った。その結果、自らの専門における知識や経験をもとに、一般家庭で保管されている水銀血圧計の適切な廃棄の促進を目的とした、ごみ分別カレンダーの改善などのアイデアを盛り込んだ十数頁のパンフレットを作成した。ワークショップの後、参加学生の1人がパンフレットをCOP3会場に持参し、現地で内容のポスタープレゼンテーションを行った。また、ワークショップ期間中には、水銀に関する水俣条約の採択の地である熊本からのメッセージビデオにHIGO生2人が出演し、水俣インターンシップでの学びとCOP3成功を祈るメッセージを送った。
※HIGO生のCOP3での発表について、詳しくはコチラ
http://higoprogram.jp/2019cop3/
インターンシップを終えて
水俣インターンシップも3年目となり、今年は、昨年実施時のテーマであった、水俣病を科学や歴史・社会といった複合的な視点から学び、さらに今日の環境都市づくり、未来のための教育へとどのようにつながっているか、を深化させることを目的とした。学生たちも、現地に赴いて水俣病や水俣について学ぶだけでなく、自分の知識や経験を活かして、少しでも地元の観光や教育に貢献したいと発表などを行った。中でも、スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)である水俣高校とのワークショップは、参加した学生たちが地元の生徒の環境に対する意識の高さを感じながら、自分たちの知識をどうすれば上手く伝えることができるのか、見つめ直す新鮮な機会となっていた。さらに、水俣で学んだことを生かす新たな試みとして、環境省の協力を得ながら、2019年11月にジュネーヴで開かれたCOP3での配布用に、水銀に関するリスクコミュニケーション文書を提出した。水俣インターンシップを履修した学生が、このような発展的な取り組みにチャレンジすることができたのは、ひとえに本インターンシップの実施にご協力下さった、水俣の様々な機関や団体、個人の方のお陰であり、記して深く感謝申し上げたい。
■参加した学生の声
自然に発生した病気と異なり、人が引き起こした水俣病公害は、患者さんだけでなく、周囲の人々や加害企業、自然、行政等と複雑に絡みあい、多くの悲劇を生むことになると改めて痛感した。
一言で公害問題と言えないと改めて感じた。今回学んだことを多くの人に話していくことが、実際に今回学んだ者の使命だと思った。小さなことからでいいので、まずは家族とこの問題についてもっと話をして忘れないようにしたい。
水俣病に対して歴史や現在の取り組み(治療法の開発や環境保全への取り組み)だけでなく、水俣病の加害者・被害者両方の立場から水俣病に対して学ぶことで客観的に水俣病に対して考えることが出来た。この経験は今後研究者としてのキャリアを積んでいきたいと考えている私にとって非常にいい機会になった。