Internship

インターンシップ

■タイ 2019.12.2- 12.9

■参加者

HIGOプログラム生3名、薬学教育部生3名、他大学薬学部生3名、教員2名

■目 的

タイ王国の近年の経済発展は目覚ましく、医療分野においても医療技術の向上に伴い、医療ツーリズム事業を政府主導で展開している。一方で、他のASEAN諸国と比較して、少子高齢化が急速に進行しており、早急な対策が必要などの課題も抱えている。本インターンシップでは、タイの大学、病院、薬局、JICA・JASSO、日系製薬企業を訪問し、タイにおける薬学研究、医療人材育成、医療ビジネス、社会保障対策の現状を学ぶ。

■内 容

1日目
バンコクにあるマヒドン大学医学部シリラート病院を訪問し、熊本大学―マヒドン大学―コーンケーン大学のdouble PhD programシンポジウムに参加した。ダナ・ファーバー癌研究所のPeter Sicinski教授の基調講演を拝聴し、また、マヒドン大学、コンケーン大学医学部の大学院生のポスター発表を見て、タイの医学部での研究内容について学んだ。午後からはシリラート病院の法医学博物館や解剖学博物館、寄生生物博物館などを見学し、タイの法医学の歴史や感染症について学んだ。

2日目
タイ・メイジ・ファーマシューティカル Co., Ltd.を訪問し、会社の概要をご紹介いいただき工場見学をした。1979年に設立され、現在、約400名の従業員が勤めている。ラクトバーン工場では医療用医薬品だけでなく、原薬、健康機能食品、動物用医薬品が生産され、タイ国内だけでなく、日本やマレーシア、シンガポールなどで販売を行っている。日本と同じ製造工場の品質管理を維持しつつ、タイの気候に合わせた医薬品管理がなされていることを学んだ。

3日目午前
JASSO海外事務所(タイ)に訪問し、タイ事務所の業務内容について伺った。2名の現地スタッフが勤務しており、日本に留学希望の学生に個別相談を実施している他、日本留学フェアを開催し、日本の文化や大学の紹介を行っている。また、年に2回、日本留学試験を実施している。タイでは英語圏への留学が一番、人気とのことであるが、今年度にバンコクで開催した日本留学フェアでは3,000名もの訪問者がいたと伺い、日本に興味を持っている学生が多いことに驚いた。ただ、タイは格差社会であり、日本語を学習するのに経済的な余裕がない学生も少なからずおり、日本への留学を諦める学生もいることを知った。

3日目午後
JICAタイ事務所に訪問し、保健医療分野でJICAタイ事務所が支援している事業について学んだ。タイは経済発展の早い段階で高齢化が進んでおり、今後、日本以上に高齢化対策の社会問題が深刻になると予想されている。JICAタイ事務所では日本の地域包括ケアシステムのタイへの導入を支援している。日本のシステムをそのまま、タイに導入はできないので、タイの医療制度、タイ人の生活スタイル、家族観に合わせてシステムを構築することが大事と伺った。次に、タイFDAからの依頼でJICAに厚生労働省から出向している専門家(薬剤師)にタイの医薬品規制の国際化について、また、ご自身のキャリアパスについてお話を伺った。タイFDAで医薬品の審査スキルの強化や、日本の医薬品規制当局、病院、製薬企業などへの研修をコーディネートしたり、海外の医薬品規制に関する情報収集を行っているとのことであった。英語が得意であることを活かして、これまで3回、海外で業務を行ってきたが、何が得意で、何で役に立てるのかを考え、自分のキャリアパスをつなげていくと良いのではと助言をいただいた。

4日目
午前中に学生が街中のドラッグストアを訪問し、タイの薬局の特徴について薬剤師にインタビューした。タイの医療保険はカバーできる医療費に限度があり、また、公立病院は非常に患者が多く、待ち時間が長い。そのため、患者の多くが病院ではなく薬局で薬剤師に診断してもらい、薬や健康食品を処方してもらうと伺った。薬局には血糖測定器や血圧測定器、体重計などあり、診断や服薬指導に利用しているとのことである。タイではほとんどが院内処方のため、薬局では処方箋は受け付けていない。また、薬局で抗生剤や抗炎症薬などが購入でき、日本に比べて、処方箋なしで幅広い医薬品を扱えることを知り、タイの薬剤師は日本の薬剤師よりも医療で担う役割が大きいと感じた。一方で、薬局では薬歴管理はほとんどされておらず、重複投与や副作用の管理があまりできていない印象を受けた。
午後に日本語ができる従業員がいるBLEZ薬局を訪問し、薬局経営者の日本人の方から、薬局設立の経緯やキャリアパスについて伺った。大学生の時に日本で起業し、学んだ営業ノウハウを活かしてタイで雑貨の輸出販売会社を起業した。ドラッグストアで売っている商品の売れ行きが良かったため、薬局の設立を考えたとのことである。現地の薬局と差別化をはかるため、日本人が多く住む居住区で日本語が通じる薬局を開局した。現在では13店舗を展開し、薬局の隣にクリニックも開院している。今後はタイ国内の薬局に限らず、薬局の国際展開やヘルスケア分野での事業展開を考えている。海外で起業する際には、自分の強み、即ち、日本の強みを事業展開にどのように活かしていくのか考えるのが大事ではないかと助言をいただいた。

5日目
ブラパー大学薬学部と医学部附属病院を訪問し、タイの薬学教育について学んだ。ブラパー大学は1955年に設立され、現在では23学部が併設されており、薬学部は2009年に設置された。タイの薬学部は日本と同じ2009年に6年制課程に移行している。ブラパー大学では4年時に研究コースと臨床コースを選択するが、どちらのコースとも学生のニーズに合わせて病院や薬局、製薬企業で研修ができるカリキュラムを取り入れている。インドやマレーシアなどからの留学生も受け入れており、逆に、近辺の国に留学する学生も多い。訪問した日に日本のOSCEにあたる実技試験が行われており、日本の薬学6年制課程のカリキュラムと非常に類似していると感じた。
医学部附属病院では、他国との交換プログラムを盛んに実施しており、同日に訪問していたインドネシアと中国の看護学部の学生と一緒に講義を受講し、病院見学をした。講義では、病院の紹介とタイの感染症などについて学んだ。タイの病院は日本と同じく西洋医療が中心であったが、タイマッサージが取り入らており、伝統医療と組み合わせた治療が行われているのが特徴的であった。また、数十名の患者さんのベッドが並ぶ病室があり、カーテンの仕切りがない点は日本と大きくことなると思った。

6・7日目
ブラパー大学の学生さんと一緒に、文化施設、観光施設を訪問し、交流した。ブラパー大学内にあるバンセーン海洋科学研究所、ラマ2世記念公園内博物館、水上マーケット、寺院、動物園を訪問し、タイの文化、宗教、生活について学んだ。

8日目
ラパー大学の研修先の一つであるチャオプラヤ・アバイブーベ国立病院を訪問し、タイハーブの博物館と製造工場を見学した。チャオプラヤ・アバイブーベ国立病院はタイハーブの国立研究機関であり、皮膚病や炎症、糖尿病などにおいて伝統医療で使用しているハーブを研究するだけでなく、1982年からオーガニックがハーブの化粧品やサプリメントの製造を開始している。病院に隣接する工場では、これらの製品が製薬基準で製造されていることを学んだ。病院にはハーブ製品を使用したスパとカフェが併設されており、タイマッサージだけでなく、カフェで食事指導なども行っている。また、スキンケアの使用方法について市民向けのワークショップを開催している。スパやハーブ製品の売上の一部は研究・開発だけでなく、病院経営にも充てていることを伺った。タイハーブは近年、薬理学的効能の科学的検証が進められており、タイの病院ではますます西洋医学に加えて、タイハーブを使用した治療が推進されていくと思われた。

インターンシップを終えて
タイの高齢化や経済格差などの社会問題だけでなく、その格差社会によって生じる教育格差の問題についても学ぶことができた。バンコクは思っていた以上に経済発展を遂げていると思ったのが率直な感想であるが、一方、バンコク周辺を離れると、バンコクと地方との発展状況の格差についても感じた。タイの薬学教育は日本と類似していると感じたが、日本以上に薬剤師が担う役割は薬局と病院とで大きな違いがあることを学んだ。また、病院ではタイマッサージやハーブ製品などの伝統医療が積極的に取り入られており、日本の西洋医学中心の治療との違いを実感することができた。インターンシップの遂行にあたり、ご尽力いただきましたブラパー大学のPattaravadee Srikoon先生、各訪問先の皆様にはこの場を借りてお礼申し上げます。

■参加した学生の声

イの抱える様々な社会問題とその解決策や対策について幅広い視点から学ぶことができた。タイでは薬剤師の担う役割がとても大きく、そのための教育も充実していると感じたし、日本もタイもお互いに見習うべき点があり、協力して高齢化の進行という大きな課題を乗り越えていく必要があると感じた。また、タイのブラパー大学の学生との英語での交流もとてもいい経験となり、熊本大学以外の学生ともとても広く友好関係を築くことが出来た。

タイで働いている日本人の方にお話を聞くことができたのがとても勉強になった。海外で働くとはどういうことなのか、バックグラウンドの異なる環境で働くにはどのようなことが重要なのか、現実感のあるお話を聞くことができ、将来のビジョンを考えることができた。

速すぎる高齢化が問題となっており、この問題をアジアの他の諸国へ発信することで高齢化問題に対する啓発になると思った。また、日本で行われている高齢化社会に対する取り組みが活きている部分もあり、日本は高齢化社会国家として積極的に情報を発信していく必要があると感じた。

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