Internship

インターンシップ

■中国インターンシップ 2018.10.15- 10.19

■参加者

HIGOプログラム生4名、薬学部生1名、大学院薬学教育部生4名、教員2名

■目 的

中国では、国家をあげて科学技術政策への取組が急進しており、中国の国際的研究水準は急速に向上している。こうした背景の下、医療技術も進歩し、医療制度の改革も伴って、中国の健康水準は向上している。しかし、都市部と農村部での医療格差など中国の医療制度には多くの問題が存在している。本インターンシップでは、中国薬科大学を訪問し、中国の最新の薬学研究・教育について学ぶ。また、中国の医療機関を訪問し、中国の医療制度の現状と課題を学ぶ。また、日系製薬企業を訪問し、海外でのビジネス展開の現状、中国の製薬企業の動向について学ぶ。

■内 容

1日目
南京市郊外にある中国薬科大学、CPU Jangning campusを訪問。始めにCPUについて紹介していただいた。CPUは最も歴史が古い薬科大学で研究だけでなく教育にも特化した大学である。日本の薬科大学とは異なり、薬学の他に中医薬学や国際医薬経済学などの10学部があり、学生数は約16,000人と規模の大きい大学である。Jangning campusには講義棟や実験棟、学生遼などの他に広大な敷地の薬用植物園があり、中国国内の植物だけなく熱帯植物など世界各国の植物が栽培されている。また、CPUの歴史館(Jiangsu Pharmaceutical Museum)には植物・鉱物・海洋生物・動物の数多くの標本が展示されており、中国の伝統的な天然物創薬の歴史を学ぶことができた。臨床薬学教育を行っている模擬薬局には西洋薬調剤室の他に中医薬調剤室があり、日本との薬剤師教育の違いを学ぶことができた。最後に、CPUの学生や留学生と研究や大学生活についてフリーディスカッションを行い、学生同士で交流を深めた。

2日目(午前)
南京市第一医院を訪問。南京市第一医院は、医療レベルの最も高い三級甲等病院であり、南京医科大学、中国薬科大学の附属病院でもある。最新の医療設備が導入されており、特に、心血管疾患や癌の治療に特化している。薬剤師の業務は外来調剤、入院調剤、注射薬混注など日本と大きく異なる点は見られなかったが、中国では医薬分業が日本より進んでいないため、外来のお薬渡し窓口には多くの患者が並んでいる光景が見られた。また、日本では、医薬品は用法・用量を記載した薬袋に入れて患者に渡すが、中国では箱包装の医薬品を患者に渡していた。服薬方法については窓口で簡単に説明するだけで、詳しく、説明を聞きたい患者さんには個別に別室で対応していた。日本特有の散薬の分包は中国では行わないとのことで、改めて、散薬分包は日本特有の調剤方法であることを感じることができた。

2日目(午後)
中国薬科大学、CPU Xuanwu campusを訪問。Xuanwu campusは南京市中心街にあり、主に大学院の研究棟があるキャンパスである。Key Laboratory of Carcinogesis and Intervention of Jiangsu Province、Joint Laboratory for Drug Metabolism & Pharmacokinetics、State Key Laboratory of Natural Medicinesの3研究室を訪問見学した。現在、中国の大学では欧米に研究留学している優秀な若手研究者を教授として招聘し、十分な研究資金の下、最先端の研究を遂行できる環境を整備している。訪問した各研究室には、充実した研究機器が配備されていた。

3日目
南京市中西医結合医院を訪問。南京市中西医結合医院は三級甲等病院であり、中医学と西洋医学を統合した「中西医結合医学」を基に診療を行っている。病院には中医学病棟と西洋医学病棟があり、薬局も西洋薬薬局と中医薬薬局を併設している。中国には結核患者が多く、この病院はリンパ節の結核病変から発生した皮膚腺病の治療に特化している。抗結核薬での内服治療後に、皮膚病変部位からPocket Creation Methodで病変部位にポケットを形成し、中医薬を塗布して治療を行う。海外から治療に来る患者も多いとのことである。中西医結合医学は病気の初期段階の「治未病」を治療可能であり、病気の悪化予防や健康維持のために鍼灸治療を取り入れた治療を行っている。また、病院内で独自処方の39種類の医薬製剤を調製しており、その内、28種類は中国FDAより認可を受けている処方とのことである。その他、慢性疾患の患者には薬を配達するサービスも古くから実施しているのが特徴である。

4日目(午前)
鼓楼区挹江門社区衛生服務中心を訪問。鼓楼区挹江門社区衛生服務中心は一般病院と健康センターを兼ねた医療施設である。糖尿病や高血圧患者への健康相談や鍼灸・マッサージ治療を組み合わせた診療を行っている。この施設では中国の医療制度についても伺った。中国の公的医療保険制度は大きく2つに分類される。都市で働く会社員などの被用者は「都市職工基本医療保険」に加入し、都市の非就労者や農村住民は「都市・農村住民基本医療保険」に加入する。個人負担額は医療保険によって異なっている。都市部でも所得によって受けられる医療に格差が存在するが、低所得層が多い農村部では、都市部のような十分な治療を受けられないという大きな医療格差があることがわかった。高齢化が進む中国では2020年までに国民皆保険制度の実現を目指しているが、都市部と農村部の医療格差は解決すべき優先課題の一つであると考えられた。

4日目(午後)
老百姓大薬房を訪問。老百姓大薬房は中国国内で3,300店舗を展開する大手チェーン薬局である。OTC薬や医療器具も販売している。病院と同じく、西洋薬と中医薬を扱うカウンターが併設されているのが日本と大きく異なる点であった。訪問した薬局には患者問診室の設備もあり、また、中国薬科大学の実習講義として使用できる講義室も併設されている。患者へのサービスとして中医薬を煎じて患者自宅まで配達するサービスを行っているが、日本のように薬剤師が在宅訪問し、服薬指導をすることはやっていない。中国の薬局薬剤師の給料は低く、離職率が高いことが問題と伺った。

5日目
参天製薬中国有限公司(蘇州市)を訪問。蘇州工場について紹介いただき、工場見学をした。蘇州工場には現在、約180名の従業員が勤めており、日本人は2名が勤務している。現在、重慶に工場を建設中であり、H31年3月に完成予定である。次に、中国の医薬品承認制度、点眼剤開発について学んだ。中国では欧米、日本より審査の厳しい医薬品承認制度を作ることを目指しており、頻繁に制度が改定される。制度が改定される度に改定内容に合わせて製造工程を変更するなどの対応をとらなければならない。現在、蘇州工場では中国の厳しい承認基準に対応するため、防腐剤フリーの点眼薬の開発に力を入れているとのこと。最後に、中国で日系企業が展開するにあたって大事なことを伺った。中国で工場を設立する際には日本と同様に行政に様々な認可申請をするが、中国では日本と交渉方法が異なるため、日系企業同士が連携して情報交換をしていくのが大事である。何よりも海外で働く際には異文化な環境を楽しむことが大事であることを伺った。

インターンシップを終えて
中国の大学での薬剤師教育システムについては日本とほとんど差がないように思えた。一方、研究環境については、日本の大学の研究設備との差を目の当たりにし、中国が国を挙げて科学技術向上を推進していることを肌で感じることができた。また、医療機関訪問では日本とは異なり、中医学と西洋医学の両方の施設を持つ医療機関が多く、中国の医療において中医学の影響の大きさを改めて学ぶことができた。中国の経済発展により所得格差が拡大したことに伴い、所得階層間の医療格差も拡大しており、医療システムに課題があることも学んだ。参天製薬蘇州工場の訪問では、中国の医薬品開発について、また日系製薬企業が事業展開する上で重要なことを学ぶことができた。5日間と短い期間ではあったが、中国の薬学教育、医療システム、さらに日系製薬企業の業務内容を学べたことは大変貴重な機会であった。インターンシップの遂行にあたり、ご尽力いただきました中国薬科大学の楊 長青先生、参天製薬蘇州工場の皆様にはこの場を借りてお礼申し上げます。

■参加した学生の声

日本の医療体制の問題を考える上でも、海外の医療体制を学べたことは勉強になった。また文化的な点では、食事の価格は日本と変わらないが、鉄道・バス等の公共交通機関の交通費がかなり安いといった日本との違い、また車と同数ほどの原付が道路を走っているなどの交通事情の違いを肌で感じることが出来た。

Through this overseas study tour, I came to know the real China and how they are growing drastically and spreading themselves toward worldwide.

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